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京都地方裁判所 昭和40年(わ)740号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、無罪とした公訴事実の要旨

「被告人は、昭和四〇年一一月九日午後七時三〇分ころから、総評京都地方評議会の主催により、京都府公安委員会の許可を得て、円山音楽堂を起点とし、祇園石段下、四条河原町、河原町御池を経て京都市役所前に至る順路で行なわれた日韓条約批准阻止を標榜する集団行進、集団示威運動に参加し、同日午後八時すぎころ京都市下京区河原町四条交差点に至つた際、同所において、学生の梯団の先頭を行進中の京都大学の学生ら約一五〇名をもつて編成する行進隊の先頭列外に位置し、先頭列員が横にして握つている竹竿を両手で後手に握りながら同行進隊を誘導してジグザグ行進をさせ、もつて京都府公安委員会が許可にあたり許可条件の一つとして付したジグザグ行進をしないことという条件に違反する集団行進示威運動を指導したものである。」

二、当裁判所の判断

(一) 昭和二九年京都市条例第一〇号「集団、集団行進及び集団示威運動に関する条例」(以下、市条例という。)が規制の対象としている集団行進及び集団示威運動(以下、集団行進という。)は、多数人が自己の思想、意見主張等を公衆その他に訴えることを目的として道路その他屋外の公共の場所を利用して行なわれるものであるから、その方法、形態によつては地方公共の秩序をみだし、公衆の生命、身体、自由または財産を侵害する事態を惹起するおそれもありうるので、これらの不祥事態を避けるために、地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全を保持する責務のある地方公共団体が、条例によつて集団行進に対し事前にその方法、形態につき制限を加え、その制限に違反した者を処罰することのあることもやむをえないものといわなければならない。しかしながら、憲法二一条が保障している表現の自由は、民主政治をしく国家、社会にあつてはその存立の基盤をなすものであるところ、集団行進もその表現の自由の一形態と認められるべきものであるから、これを制限するのは前記のような不祥事態が発生することを避けるための必要にして最少限度のものであることを要するものといわなければならない。市条例が、その一条において、集団行動が「公衆の生命、身体、自由又は財産に対して直接の危険を及ぼすことなく行われるようにすることを目的とする。」と規定し、また、その六条一項本文において、公安委員会は集団行動の許可申請があつたときは、その実施が「公衆の生命、身体、自由又は財産に対して直接の危険を及ぼすと明らかに認められる場合の外はこれを許可しなければならない。」とか、同条三項において、公安委員会は「公衆の生命、身体、自由又は財産に対して直接の危険を防止するため緊急の必要があると明らかに認められるに至つたときは、その許可を取消し又は条件を変更することができる。」等と規定しているのも、右の理を明らかにしたものと解すべきものであり、またこのように解することによつて市条例が憲法二一条に違反するものでないことの所以を説明することができるものと解する。そしてまた、条例は法律の範囲内で(憲法九四条)、かつ、法令に違反しない限りにおいて(地方自治法一四条一項)のみ制定することができるものであるから、一面において集団行動に対しこれを規制する作用を営みその参加者を処罰することにもなる余地のある道路交通法七七条、一一九条に牴触するものであつてはならないことも当然のことである。そうであるとするならば、市条例六条但書によつて公安委員会が集団行動の許可にあたつて「必要な条件」をつけることができるための要件ならびにそのつけられた条件の内容がどのようなものであるべきであり、またどのようなものであるかということは、右にみたような観点にたちつつ、集団行動が示威運動としてある程度の威力的要素を帯有する性質のものであることを前提としてその自由を保障されているものであるとの考慮のもとに解釈し決定すべきものといわなければならないのであつて、公安委員会は、単に交通秩序を維持するためということではなくて、当該集団行動が地方公共の秩序をみだし、あるいは公衆の生命、身体、自由または財産に対して直接の危険を及ぼすおそれがあると認められる場合に、はじめて、これを避けるために必要にして最少限度の条件をつけることが許されるものであり、また、そのつけられた条件の内容も右のおそれの有無を基準にして解釈決定されなければならないものと解すべきものである。したがつて、公安委員会がつけた条件に違反して行なわれた集団行動の指導者に対して成立する市条例九条二項の罪の構成要件要素としては、集団行動が単に公安委員会のつけた条件の文言に形式的に牴触するのみでは足らず、その集団行動の形態、方法が地方公共の秩序をみだし、あるいは公衆の生命、身体、自由または財産に対して直接の危険を及ぼすおそれのあるものであり、またその集団行動によつて現に地方公共の秩序あるいは公衆の生命、身体、自由または財産に対する具体的危険を生じさせたものであることを必要とするものといわなければならない。

(二) そこで、本件事案について検討するに、<証拠>によると、本件集団行動は主催者を松井巌、日時を昭和四〇年一一月九日午後七時三〇分から同八時三〇分、目的を日韓条約批准阻止の全国総決起デモ、順路を円山音楽堂から祇園石段下、四条河原町、河原町御池を経て京都市役所前広場まで、参加予定人員を約三、〇〇〇名、参加予定団体を京都地方評議会傘下の労働組合として、昭和四〇年一一月四日に魚谷明敏から許可申請がなされ、これに対して京都府公安委員会は、同月八日に「交通秩序を維持するため」「道路上でジグザグ行進、うず巻き行進、逆行進またはことさらなおそ足行進や停滞もしくはことさら隊列の幅をひろげて行進するなど、一般の交通秩序を乱すような行為をしないこと。」等の事項をまもることとの条件をつけて右集団行動を許可したところ、被告人は、同月九日、右京都府公安委員会の許可をえて行なわれた京都市東山区円山音楽堂から祗園石段下、四条河原町、河原町御池を経て同市中京区京都市役所前に至る集団行動に参加し同日午後八時七分ころ、同市下京区河原町四条交差点に至つた際、京都府学連社学同派と目される何個梯団かの集団約七〇〇名のうち、京都大学の学生ら約一五〇名によつて構成された先頭梯団の先頭列外に位置し、五、六人の先頭列員(山崎良の検察官に対する供述調書、司法警察員および司法巡査作成の「デモ行進の視察採証結果について」と題する各書面によると、七、八列縦隊とあるが、司法巡査作成の「集団示威行進の写真撮影結果について」と題する書面と対照してにわかに措信できない。)が横に構え持つた竹竿を後手で握り笛を吹きながら同梯団を誘導して右交差点東詰の横断歩道北側付近から同交差点に進入し、同交差点内においてジグザグ行進を行なおうとしてその中心部方向に向つて進行をはじめたが、そのとき既に同交差点に待機し、あるいはこれまで同梯団の併進規制に従事していた京都府警察機動隊員らによつてたちまちのうちに南北両側からの併進規制を受けるとともに、同梯団の先頭部が右交差点の市電南行軌道にかかる以前に警察官による被告人に対する逮捕行為が開始されたため、同梯団の先頭部分が右交差点内において二回ほどある程度のふくらみをもつて左右に振れた行動(山崎良の検察官に対する供述調書によると、同梯団のジグザグ行進により二回ほど大きく振れたときのその振れた幅はそれぞれ約三メートルということであるが、同人が目撃していた位置、同人作成および司法巡査作成の「デモ行進の視察採証結果について」と題する各書面、第一〇回公判調書中証人柴田重徳の供述記載、同交差点内の広さ、警察機動隊による併進規制の時期と態様、警察官の被告人に対する逮捕行為の開始時点とこれに対する被告人あるいは同梯団参加者らの抗拒行為と対照してみると、右振れ幅が約三メートルにまで達し、またそれがジグザグ行進そのものであるとはにわかに断定できない。)がとられたものの、同梯団全体としては殆んどジグザグ行進らしいこともできないまま前記警察機動隊により継続して併進規制を受けた状態で右交差点を出て河原町通の北行車道を北進したこと、同梯団はその以前に右交差点を整然と通過した梯団と同じように交通警察官によつて作動された手動式による青色進めの信号に従つて同交差点に進入したものであること、同梯団の進行経路は前記ある程度のふくらみをもつて左右に振れた二回ほどの場合において右交差点内の市電東行軌道にかかるかかからない程度のところまで達した(山崎良の検察官に対する供述調査によると、一回目の場合には同東行軌道にかかつたようになつているが、事件の翌日に作成された同人および司法巡査作成の「デモ行進の視察採証結果について」と題する各書面によると同東行軌道にかかつた事跡はなく、措信できない。)ことはあるが、その後は同交差点北西角方向に向け進行してそのまま同交差点を通過し河原町通の北行車道を同通の市電北行軌道にはいることもなく北進したこと、同梯団の以前に右交差点を整然と通過して行つた各梯団の同交差点内通過のために要した時間は、短いもので約一分間、長いもので約五分間であり、それらの一個梯団の平均所要時間は三ないし四分間であつたこと、被告人の梯団が右交差点点が通過するために要した時間は、現場にいた係警察官が同梯団を含めた前記京都府学連社学同派と目される何個梯団かの集団約七〇〇名全体の要した時間を約六分間と測定したのみであつて被告人の梯団そのものについて要した時間を測定していないので、その時間はさだかではないけれども、同梯団のさきにみた進行形態、構成人数ならびに同梯団の後に続いた右社学同派と目されるいずれかあるいははいくつかの梯団が右交差点内において同交差点内いつぱいにわたつて激しいジグザグ行進を行なつているいるためそれら梯団が同交差点を通過するに要した時間は右約六分間のうちの相当部分を占めるものと推認されることおよび被告人が現実に逮捕されたのは同日午後八時一一分ころであるが、その場所は右交差点からある程度北方の河原町北行車道上であり、かつ、その逮捕行為は被告人や同人の梯団参加者の抵抗にあつて迅速にはできなかつたことからみて、同梯団が同交差点を出てから被告人が逮捕されるに至るまでの間にある程度の時間を要したであろうことも推認されることなどの諸点から推して、一個の梯団の右交差点通過の所要時間としては長いものとはいえず、同梯団以前に右交差点を整然と通過していつた各梯団の前記平均所要時間に比較し長いものであつたとはいえないことなどの事実が認められる。そして前記各現認報告書によれば、被告人の梯団を含めた前記社学同派と目される何個梯団かの約七〇〇名全部の集団が右交差点を通過している間における交通停滞状況としては、東行、西行、南行、北行の各車道上または市電軌道上に合計にして市バス二一台、市電九輛、自動車約一六〇台が停滞していた模様であるが、前記のとおり、被告人の梯団はその先頭に位置し、青色進めの信号にしたがつて交差点内に進入し、それ以前に通過した梯団に比較して通過所要時間が長かつたとはいえず、また後続の前記社学同派と目される各梯団との間に交差点における行進態様につき意思連絡をもつたとの証跡もないのであるから、被告人の右交差点内における行進によつて右のような著しい交通停滞が生じたものであるとはにわかに断定しがたいところである。その他、被告人の梯団が右交差点に進入したころ、同交差点に一般大衆がたち入つていたことを認める資料はなく、同梯団の右交差点内における前記行進によつて、ことさら一般歩行者の通行を著しく阻害し、あるいはこれらに危害の及ぶような状況を現出したような事跡を認めるに足りる証拠なない。

(三) そこで、以上認定のような事実関係にてらして、被告人の誘導により行なわれた本件梯団の前記交差点における行進が、京都府公安委員会によつてつけられた前記許可条件に違反するところの公共の秩序をみだし、あるいは公衆の生命、身体、自由または財産に対して直接の危険を及ぼすおそれのある形態、方法で行なわれ、また、その行進によつて現に公共の秩序あるいは公衆の生命、身体、自由または財産に対して具体的危険を生じさせたものといえるかどうかについて検討するに、前記認定のとおり、被告人の梯団は前記交差点におけるジグザグ行進をする意図のもとに同交差点内に進入しジグザグ行進をはじめようとしたものであるが、同交差点に進入して間もなく京都府警察機動隊員らによつて梯団の両側からの併進規制を受けたことと、同交差点中心部に至る以前にこの梯団を誘導していた被告人が警察官により逮捕されようとしたことのあるためもあつて、一般公衆のたち入つていない同交差点内において、結局は同梯団の、ことにその先頭部分が多少ジグザグ行進らしき形態をとつたにとどまつたものであるから、このような結果に終つたことが、たとえ右警察機動隊員らの併進規制によるものであつて被告人をはじめ右梯団参加者の意図に反したものであつたとしても、同梯団の右のような交差点における行進を全体として観察した場合、同梯団のその行進形態、方法をもつてしてはいまだ公共の秩序をみだし、あるいはは公衆の生命、身体、自由または財産に対して直接の危険を及ぼすおそれのあるようなジグザグ行進であつたものとは認めることができないし、また、同梯団のこのような交差点における行進が地方公共の秩序、あるいは公衆の生命、身体、自由または財産に対する具体的危険を生じさせたものであるとも認めることはできないところである。そして他に、右認定を左右するに足りる証拠はない。

三、そうしてみると、結局本件においては、京都府公安委員会がつけた許可条件に違反した集団行動の指導者に対する市条例九条二項の罪の構成要件要素である事実の証明がないことに帰するから、本件公訴事実は犯罪の証明不十分として刑事訴訟法三三六条により被告人に対し無罪の言渡をすることとする。

(太田浩)

〔参照判決〕京都地判昭四六・一〇・七本誌二七一号三〇八頁

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